「だからといって、勝負はこれからだからな」

 あたしの考えを見通したかのような太一さんの言葉に、ギクリとなる。


 そうだ、まだ始まったばかり。

それにあたしはスタートが遅かったんだから、うかうかなんてしていられる時間はないんだった。


 自分の甘さに気づかされる。


「あ、そうだ!」

 しんみりしてしまった雰囲気を変えるかのように、マスターは明るい声をあげる。


「次の土曜日にあじさい祭りがあるから、未来ちゃんおいでよ」

「え…?」


 ここの商店街は通称・あじさい商店街といって、小さなお店の集まり。

だけど地域の結びつきが強くて、昔からあるお祭りがこのあじさい祭り。


『梅雨の独特なあの気候に負けないように、神様にお願いするのがはじまりだ』

ってお父さんが言っていた。


 幸いアーケードに囲まれた商店街は、屋台を出しても雨天中止になることはなかった。

 そして、ここの喫茶店も例外ではないようだ。


 あたしはチラリと太一さんをみた。



 だって、これでも受験生じゃない?

 そんなこと…。



「…ったく」

 小さな太一さんの声が聞こえたと思ったら、コツンとおでこを小突かれた。

 あたしの気持ちが伝わってしまったのだろうか。