フォーチュンクッキー

「マスターっ!」

 チリリン、と勢いよく扉のベルを鳴らせば、カウンターからエプロンをつけた男の人が振り向いた。


「おや、元気がいいね。未来ちゃん」

 笑顔で迎えてくれたマスターの横には、だれもいない。

それが、普通。


 いつもの席に座って、カバンを横に寄せてあたしは肘を置いた。

「制服見せ合うから、杏ちゃんとここで待ち合わせなんです」

 もう一人の幼馴染と新たな門出を祝うため、一人ウキウキしていた。

帰り際の様子からして、おそらく雛太は来ないと思うけどね。


 あたしにつられてか、ニコニコと微笑むマスター。

「そうかい。いつものでいいのかな?」

「……ええっと…」


 いつもの。

それはすこし苦味を感じさせながらも、白いミルクと甘い砂糖で調和された琥珀色の、あの味。


 今、口にしたら……きっと泣いてしまうから。


「きょ、杏ちゃんがくるんで、冷たいココアを……っ」

 あはは、とわざとらしく笑って、マスターを見上げた。

だけど、残念そうに肩を落とし、ふと厨房の奥を見やった。



「───だってさ?」



 だってさ?



「…作り甲斐ねぇな」



.