「ったく、初日早々遅刻するつもりかよ」

「う〜…だってぇ…」


 緊張してたんだもん。

と、そっと言い訳をして、マウンテンバイクの後輪にある僅かな足掛けにまたがる。


「きちんとつかまってろよ!?」

 乱暴に言うと、雛太はそのままペダルを思い切り漕いだ。



 もう消えてしまった香り。

だけど、すぐ思い出せる。


 勢いよく切る風に、緑とシルバーのネクタイはその身をかわすようになびいていた。




 商店街を抜けて、緩い坂を越える。

こうして向かうのは、1ヶ月ぶりだった。


あのときとは、すこし立場が違くなったのだけど。



 桜は散りきる間際で、学校周辺はピンクと茶の絨毯だった。

車輪が回転する軽やかな音が、ドキドキと胸を叩く。


 ぱりっとした制服がわんさかと集まる校門に到着すると同時に、あたしたちは頷きあって別方向へ走り出した。


 雛太はもちろん自転車置き場へ。

そしてあたしは、クラス分けの表をもらいに受け付けへ。


 期待と不安が膨らむ中、二人で覗き込む。