フォーチュンクッキー

 重苦しい空気の中、翌日には喫茶店の営業が始まった。

目の前には、チビ助がつかったと僅かにわかるくらい椅子が引けていた。


「新年から辛気臭いな、太一」

 すこし顎周りをスッキリさせたマスターは、けらけらと笑う。

その声にオレはすこし驚いたけど、ふうっと吐き出すようにため息をついた。


「それどころじゃなかったんですよ」

 水色のエプロンをつけたオレは、誰も来ない店のカウンターに頬杖をつき、ぼおっとウインドウの向こうで行きかう人たちを見ていた。

ようやく商店街も回り始め、昨日の静けさが嘘のよう。


 競馬のおじさんも、孫が会いにくると騒いでいたから当分はやってくることはないだろう。


 チビ助とどうなるかわからない。

けれど、きっと立ち直ると信じて英会話の本でも広げようと身体を起こしたときだった。


カラカラ、と甲高いベルの音とともに店の扉が開かれた。


「たのもーっ」

「ちょっと、杏ちゃん……っ」

 強い瞳でチビ助の制止を振り払うようにやってきたのは、他でもない彼女の親友だ。


「…い、いらっしゃい」

 驚きながらも辛うじて挨拶をすると、相変わらずオレだけをじっと見つめてくる。


「明けましておめでとうございマース。そしてあったかぁーいココア二つくださーい」

「はい、かしこまりました」

「ま、マスター……っ」

 仏頂面で頼んでくる小さなお客たちに快く承ったのは、この店の主人。

たとえチビ助だろうが、オレだろうが、それを覆すことは出来るわけがなかった。