「さっきは、ごめんなさい……」

 暖房も入っていないから、目元を冷やしている手はさぞかし冷たいだろう。

指の際は紅く染まってきていて、さらに氷の入った袋を握り締めていた。


「ちょっと……落ち込んじゃっただけなんです」


 へへへ、と笑っているけど、全く楽しそうなんかじゃなかった。

シンと静まり返る店内に、オレとチビ助の息遣いだけが広がる。


「……氷、替えてやる」

 なんていっていいかわからず、間を持たせようとチビ助の手から奪おうとした。

でもチビ助は黙って首を横に振る。


 オレが引っ張っても、その小さな手のひらは真っ赤にかじかんでいるのに放さない。

さすがに心配しているついで、気に障る。


「おい、いい加減に……っ」


 強引に氷を奪った瞬間。

チビ助の頬を、ボロリと大きな雫が何粒も滑り落ちた。


 たくさん泣いたはずなのに、まだ泣いていたのだ。


「ご、ごめんなさい……これは、違うんです」


 何が違うんだよ。


「えっと、氷の汗が目に沁みて……」

 わかりやすい嘘しか口にしないチビ助。

視線を合わそうともせず、ただ揺れる大きな瞳を隠そうとしていた。


 オレはたまらずため息が零れてしまった。


「……どうしたんだよ?」

 相変わらず、してやれることは少ない。

オレは…せめて聞いてやることしかできないから。