最愛の彼女に浮かび上がった真っ赤に腫れた目元。

とにかくなだめるためにも、冷やすためと言ってオレはスペアキーで喫茶店の扉を開けた。


 時間も経ち大分落ち着いたころ、氷を当てながら震えるように尋ねてきた。


「どうして、ここにいるんですか?」


「…なんとなく、だよ」

 嘘。

本当は、今頃どうしているかと気になって、この辺りまでブラブラやってきた。


 それに、もうすぐここを離れてしまうから、この目に焼き付けておきたかったのかもしれない。



 イイワケだらけのオレが目にしたのは、息苦しそうに扉を見つめる小さな背中。

クセ毛を揺らして、息も絶え絶えにへたり込む後姿。


 抱きしめたくなる衝動を抑えきれなかった。



「一人にしないで……っ」


 チビ助の渾身の一言は、直角にオレの胸をえぐった。

おそらく、ずっと秘めていた本音だったのだと思う。


 できることなら、ずっと一緒にいてやりたい。

すぐ隣で、寂しくなったら抱きしめてやればいい。


泣き叫ぶチビ助に、オレはやっぱり耐えられなくて……




「留学なんて、やめてやる」


 勢いもあった。

けど、並べた言葉はどれもオレのキモチに反してはいなかった。



 結局、オレが選んだ道は、チビ助を傷つけたんだ。


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