フォーチュンクッキー

 切なげに睫を震わせる姿は、『お母さん』だなんて到底呼べるわけがない。

周りにいた看護士さんたちもほっと胸を撫で下ろし、「片瀬さん、戻ってください?」とたしなんでいた。


 あたしもその二人の姿に安心して、ひょっこり顔を出した瞬間だった。


「お父さん?」

「ああ、未来……」

 お父さんが振り向いたと同時に、その腕にいた凛子さんの肩がピクリと反応した。

「やめて!!」

 突然大声で叫んだのは、その身体と声量が不似合いな凛子さん。

心臓が飛び出たかと思ったくらい驚いてしまい、肩を震わせる凛子さんをじっと見つめていた。


「凛子、さん……?」

 きゅっと拳を握り締めて、あたしは聞き返した。

けれど帰ってきたのは、儚げな鋭い視線だった。


「明宏さんを奪らないで!!」

 お父さんの腕を、凛子さんはお構いなしにぎゅっと掴んでいる。

そのたび、お父さんの表情は苦渋に濁る。


「凛子さん、落ち着いて?お父さんの腕……」

 あたしもなだめようとした。

けど、それは逆効果になってしまったみたいで、凛子さんは顔を真っ赤にして叫んだ。




「わたしには明宏さんだけなの……っ!!」