「ん?…ほら、いくぞ」

 ふと頬を緩めた太一さんは、何気なしにあたしの手を引いてくれた。

あの、5月のお祭りのときみたく。



 人ごみを掻き分けて、ようやく商店街まで戻ってきた。

まだ閑散と静けさを保ったままのこの通りは、どこか寂しくも感じさせる。


「今日はどうするんだ?」

 いつ勉強するか?ってこと…だよね。


「あ、じゃあ、勉強道具もってきます……」


 何故か気合が入らない。

やけにイライラするし、だからといってなにが嫌なのかも分からなかった。


 そんな憂鬱に肩を落としていた。


「…チビ助」

「はい……?」

 呼ばれたから顔をあげた。

なのに、急に視界は真っ暗で、ごわごわする感触に息苦しくもなった。


 あたしは……あの太一さんに抱きしめられていたんだ。



「お前からもらったクッキー、うまかったよ」

 頭上で聞こえる小さな声。

それはきっと、照れ屋の太一さんにとってはたくさんの勇気がいるはずだ。


なのに、最も恥ずかしい方法をとったんだ。


「た、太一…さんっ」


 触れていいの?