不意になんの前触れもなく『好き』と言われたら、動揺してしまうのが性ではないだろうか。


しかも、それがなによりも大切にしたいと思う相手だったのなら、なおのこと。



 オレは、そんなしがない男の一人なのだ。




 いつの間にか、オレのシャーペンを握り締めて、しかも目の前ですやすやと寝息を立てる彼女には警戒心が薄すぎる。


まつげを震えさせ、安心しきったように肩を上下に揺らす。

それだけでオレの理性がぐらぐらと失いそうになるのを、全く理解していないのだ。



「……ったく、わかってんのかよ」

 ため息混じりに嘆くと、オレの言葉に反応するように、へらっと頬を緩めた。

一瞬、聞こえているんじゃないかと焦るものの、開こうとしない瞼にほっと一安心する。


 店内のFMはすでに切られていて、ちくたくと時計の音が耳を刺激した。



 あまり呼ばない彼女の名前。


「……未来…」


 出逢ったときから言いなれた名前から言い換えるのが恥ずかしくて、未だに『チビ助』どまり。

本人は、名前で呼ばれるほうが嬉しそうにしているのだが……


簡単にそうしたくないというイタズラ心と、羞恥心がそうさせていた。




 しんと溶けるような自分の声に、オレは頭を抱える。


…さっき、おれはとんでもないことを言ってしまったんだ。