「あっちで太一が寝ちゃってるんだよね。起きるまで店にいてくれない?」

「えぇ?…あ…はい、それはいいですけど……」


 お店の留守番なんてあたしがしていいものなのか。

参考書を抱きしめてテーブルに突っ伏す太一さんの背中。


 そっとしておいてあげたい、と思うのも本音だった。


「じゃあ、よろしくね」

 片手をヒラリと挙げてコートを羽織ったマスターは、ゆらりと商店街の影に消えていってしまった。


 席の前にあるカウンターには、これまた気づかず、サンドウィッチが置かれていた。

太一さんかマスターか。

どちらにしても、いまのあたしにはとってもご馳走だ。


「いただきまーす」と小さく呟き、がぶりと頂いた。


 軽食を済ませると、店内のBGMに乗っかってくうくうと聞こえる寝息。

かばんから小さな花柄の紙袋を取り出し、太一さんの突っ伏すテーブルに近づく。


 見つかりませんように……。


 テーブルに紙袋を置き、回り込んで対面の椅子に座ってまじまじとその寝顔を見つめていた。



 どうにか太一さんに対抗できないものか。

いっつもからかわれてばかりだし。


 あたしも同じように机に突っ伏して、腕に顎を乗せながら攻略法を考えていた。

でも、あたしに太一さんの上をいく策なんて思いつくはずもない。


それにしても……お店の中ってあったかい……。