「未来ちゃん、がんばってね!」

 出掛けにマスターからの応援。

「はい!」

 あたしは嬉しくて、元気に手を振って店を後にした。



 喫茶店からあたしの家までは15分ほど。

長いようで短いこの時間。



 あたしはただ大きな背中を見つめてた。



 学校が終わるとすぐ向かう喫茶店。

 いつもは日が暮れる前に家に帰れるんだけど、今日だけは試験前日の一日がかりで太一さんのテストを受けていた。


 紺色に染まりつつある空は、すこしだけ火照った顔を冷やしてくれる。


そして、こんな遅くなった今日だけは、太一さんが家まで送ってくれた。



 見慣れた住宅街をぬうように歩くと、あたしの生まれ育った家はもう目の前だった。


「あ、太一さん…そこなんで…」

 周りのマンションより、明らかに古ぼけたアパート。

なんとなく恥ずかしいのと、情けないキモチがマーブル状に混ざる。


 でもそんなあたしを気にさせないかのように、太一さんはにっこりと微笑んだ。


「じゃあな」

 ただそれだけ言うと、太一さんは身を翻した。


 どうしてだろう、こんなに胸が苦しいのは。

 行かないでって思わず叫んでしまいそうに切ないのは、なんでかな?