嫌味たっぷりの雛太くんの声。

「ワケわかんないことばっかいってる奴がいるからですよ!」


 そんな様子に、さすがの怜も苦笑交じりにオレを見つめてきた。


「太一、ずいぶん嫌われてるな」

「…ったく、そろって何しに来たんだよ」


 とにかく話題をそらそうと口にすると、「ああ、そうだ」とごそごそとカバンをあさり始めた。


「担任からおまえの進路の書類渡されてよ。先に帰っちゃったから渡してくれって頼まれたんだ」

 なぜかパンパンに膨らんだカバンから、怜がようやく見つけたのと同時だった。


「ああ、勝手に決めた留学のか」

「ちょっと、雛太くんっ!」


 皮肉まじりにとぼけてみせる姿に、さすがのオレもカチンときた。

どうしてここまで彼に狂わされなければならないのか。


 まだ言いたくない。

そして言うときには、きちんと自分の口から伝えたかったのに。


「は?留学?」


 疑問を口にした怜に説明するでもなく。

 オレの言葉を受け流した雛太くんは、そのままカバンを肩に引っ掛けて背を向けたまま片手をヒラリと挙げる。


「じゃ、そういうことで。サヨーナラ」


 問題ばかりを残して店を後にしていってしまったのだ。