ノートに写すだけで一日が終わった気がする。

はぁ、とため息をついたら不意に机に影が落ちた。


「片瀬、大丈夫か?」

「先生……」


 中学にはいってから、ずっと担任の福原先生。

我が家の事情も知っているから、よく気にかけてもらっている。


第二のお父さんみたいな存在だ。


「いろいろ大変だからな。できることがあればいってこいよ?」

「………はい」


 先生は、多分お父さんが入院してるからあたしが滅入ってると思ってるのかも。


 確かにお父さんもいなくて、家に帰ればひとりぼっち。

最近は太一さんが一緒に病院にいってくれるし、そのあとは勉強を見てもらってる。



だけど、やっぱりあたしはあの家に一人になっちゃうんだ。



「杏ちゃん、雛太。帰ろ?」

 めずらしく手早く片付けたあたしを、すこし不機嫌そうに通り抜けたのは雛太。


「ひな……?」


 ちらりと一瞬目があったけど、そのまま教室を出てしまった。



「ヒナのやつ。なんか怒ってるね」

「……うん。またなにかしちゃったかな」


 しゅんと肩をすぼめたあたしに、杏ちゃんは吹き飛ばすように笑ってきた。


「どうせヒナのことだから、今日の漢字テストが悪かったのよ! 妙なところが完璧主義だし」


 杏ちゃんの言い方に、あたしは思わず笑ってしまった。