雛太は、口数が多いほうじゃない。

だからこそどんなことを考えているのかわかりにくい。

 あたしは、そんな雛太の背中を見送るしか出来なかった。


なにもいえなくなったのもつかの間、今度は優しい声で杏ちゃんは聞いてきた。


「太一さんとなにかあったの?」


 太一さん。

その名前を聞くだけで、嬉しさと悔しさが無性にこみ上げる。



「……な、なんにもないよっ」


 あたしはそう答えたけど、口にして気づかされる。


 そうなんだ。

なんにも、なくなっちゃうんだ。


 できるだけ考えないようにしたいのに、頭の中はそれだけがぐるぐる回る。


 凛子さんがいなくなった時だって、お父さんが入院したときだって。

こんなに破裂しそうに胸が苦しくならなかった。



「なんでもないなら、なんで泣いているの?」


 指摘されて気付く頬に伝う涙。


ぽたりと箸に落ちて、お弁当にしょっぱさを足していく。