気を許すと、あたしの頬はぐっしょり濡れてしまう。

だから、最近ほっぺたが筋肉痛だ。


 何が悲しくて何が嬉しいのか……。


時々、わからない。



「未来?」

 呼ばれてふと我に返る。


 目の前には、心配げに見つめる杏ちゃん。

隣にいる雛太はもくもくとお弁当をかきこんでいたけど、多分聞き耳をたてているのだろう。


「ごめん、ちょっとぼーっとしちゃって…」

 クセの強い前髪を耳にかけて、思い出したように指に力をいれて箸を動かす。

それでもお弁当箱に収まる卵焼きが、うまくつかめなかった。


「未来、顔色よくないよ?」

 覗きこんできた杏ちゃんだけど、誤魔化すように俯いてしまった。

できるだけいつもどおりに返事だけはした。


「ほんとに大丈夫だって!」


「でも……っ!」


 笑ってみせたあたしに、杏ちゃんは引き下がらなかった。


 なんていっていいのかわからない。

昼休みの教室は賑やかだけど、この一角だけはやけにシンと静まり返っていた。


 そんな雰囲気を壊すかのように、ガタンと大きな音を立てて席を立ったのは雛太。


「………ごちそうさま」


 一人呟いて、席をたって教室を出てしまった。