フォーチュンクッキー

 カチャンとテーブルにカップが置かれた音がして視線をずらす。

少し嬉しそうに、はにかんだ母さんが腰を上げていた。


「……どこ、いくんだよ…?」

 こんなに恥ずかしい思いをさせておいて、また移動するって言うのは納得いかず、思わず声をかけてしまった。


「………うん。太一の気持ちは、分かった」


 母さんはそれだけ言うと自室に戻ってしまった。



 一体、なんだったのか……。



 取り残されたオレは、一人頭を抱えてソファにうずくまる。

とりあえずそんな自分を誤魔化すように、夜も更けたことだし、と理由をつけて頭をかきながら部屋に戻り始めた。


「…でも」


 階段を数段上り手すりに手をかけて、ふと気づく。
そこからみえる廊下の一番奥に、母さんの部屋。

カタカタと、おそらくパソコンのキーボードを叩く音が微かに聞こえていた。


「ちゃんとオレの気持ち、聞いてくれたな」



 母さんの笑顔とチビ助の笑顔が、すこしだけダブった気がして可笑しくなった。


 くすくすと忍び笑いを零しながら、久しぶりに温かい夢を見て眠りについたのだった。





 翌朝、パタパタと騒がしい物音で目が覚めた。

いつもの起床時間より1時間も早くて、目をこすりながらリビングの扉を開く。


 すると、そこにはスーツをピタリと着こなして、大きなキャリーケースを片手にした母さんが走り回っている。


「……ど、どうしたの…?」