フォーチュンクッキー

「あなたの高校受験のときは、ね。
先生が…―ああ、今はマスターだったわね、ちょうどあたしが仕事でアメリカに行かなくちゃならなくなって、声をかけてくださったわ」


 それは知っていた。

なんでも勝手に決めていく母さんがうざったくて、それがどうにもできないオレは勝手にふてくされていた。


 説教ばかりするサトじゃなく。

いっつもバカみたいに優しく笑って話を聞いてくれるたマスターが、オレの心の拠り所だった。


「『面倒見ますから、もうしばらくここにいさせてやってください』って……。
もちろん、あなたのためにってことよ?」


 あの時、自分のことしか考えてなかった。

サトともうまくいかず、忙しいくらい仕事をこなす母さんに振り回されてる。

正直、もう居場所はないとさえ感じていた。


 でも、今。

少し寂しそうに話す母さんを見て、そんなことはなかったんじゃないかと思う。


 チビ助も、彼女のおじさんも。

お互いを助け合って、想いあってる。


 オレと母さんは、少しだけ言葉足らずの似た者同士だから。



「…あら、ちょっと話がズレちゃったわね」

 ぐずっと少しだけ鼻をすすった母さんは、あの頃を思い出したのか、ほんのり涙を浮かべていた。

それを目にしたら、胸がチクンと痛んだ。


「太一、あなたは自分で決められるの。
……だから、きちんと考えて答えてほしいのよ。今まで見たいに『これがイヤだから』とかではなくて」



 離れていた距離と時間。

それは、こんなに冷静にも母さんをみれるようにしていた。

 オレとしては、チビ助に出逢ったことが大きな要因だと思うけど。

どちらにしても、真正面からぶつかるいい機会なのかもしれない。



 オレだって、いつまでもコドモじゃいられないんだ。


 大きな深呼吸を一つ置いてから、オレはゆっくり口を開いた。