フォーチュンクッキー

「いい加減にしろよっ!
何が気にいらないのか知らないけど、アイツを傷つけることだけはオレが許さないから!」

 握った拳が震えていて、コーヒーも波が立っていた。

そんなオレの強い視線にもひるまず、母さんは更に続けた。


「なにを言ってるの?
彼女もそうかもしれないけど、あなたにとっても『今』は人生を選択する大切な時なのよ?」


 反論しようとしても、母さんはそれすらも許さないようにゆっくり口を開いた。

律儀な髪がけだるそうに揺れる。


「……あのね、太一。
あたしが言いたいのは、今までみたいにうまくいかないからって逃げてほしくないからよ」

「………っ!!」


 ぽつりと、消えそうなほど小さな声でため息と一緒にはいた言葉。

だけど、オレを驚かせるのには十分だった。


 顔をあげると、額に手を当てながら母さんは少し自嘲気味で笑っていた。



「サトちゃんのこと、好きだったんでしょう?」


 母さんの声は、なぜか悔しいくらい優しく感じて。

恥ずかしいという気持ちもあったけど、どうして知っているのか…。


 いや、少しでもオレのことを知っていたことに、どこか嬉しくもあったんだ。



「我が息子ながら情けないなぁ、と呆れてたわ」

 当時を懐かしむかのように、クスリと笑いを零しながら母さんは淡々と話を進める。


 時計の秒針が進む音しかない我が家。

淡々と母さんの声が響いて、一気に昔に戻ったように感じた。