フォーチュンクッキー

「………少し、話をしましょう」


 母さんはそういって身を翻し、リビングの扉を開いた。

制服のままだったけど、オレはそれにしたがった。


 我が家の安いコーヒーメーカーから、生温かいコーヒーを注いで母さんがキッチンから戻ってきた。

うっすらと湯気を立たせたカップを受け取ると、ソファにゆっくり腰掛ける。


 オレにしてみれば、今更何の話なのかさっぱりわからなかった。

母さんが同じくソファに座るのを確認して、チラリと視線を送る。


ずずっと一口飲み込むと、そのままカップを手に持ったまま見つめられた。



「どうして一緒に来る気になったの?」


「…なんだよ、今更?」

 投げやりに答えると、背もたれに身体を預けた。


 行かないと言えばしつこいくらい怒るし、行くといえばなぜかと聞いてくるし。

はあ、と深いため息をついていた。


「これはあなたにとって大事なことなのよ?」


 厳しい瞳で見つめてくるけれど、急に母親ぶられても困る。

押し黙ったオレを見て、母さんはそのまま続けた。


「それとも……あの娘と別れたのかしら?」


 さらっと呆れるようにいう母さんに、カッと怒りがこみ上げる。

「んな……っ!」


 つい先ほどみたばかりのチビ助の涙。

無理して作った笑顔。


 全部が踏みにじられた気がした。