珍しくペンを止めたチビ助が話しかけてくる。

頭に入らないくせに、中学校の教科書を見ていたオレはチラリと目線だけあげた。



「太一さんって、高校卒業したらどうするんですか?」



 それは至極当然の疑問だと思う。

実際、怜やサトはすでに推薦で大学への進学が決まっている。

クラスの就職組も、ちらちらと内定をもらっているようだった。



「……まだ、決めてないよ」

 オレは、俯いて視線をそらした。


今言うべきなのか…オレはまだ、チビ助の気持ちを量りかねている。



「もしかして…あたしの勉強見てもらってるからですか…?」


 不安げなその声に顔をあげると、すでに大きな瞳は戸惑いに揺れている。

きゅっと結んだ口を見ると、思わずあの日を思い出しかけてぶるぶると必死に振り払う。


 真っ赤に染まる、チビ助の顔と…浮き上がるような唇。



「そ、そういうわけじゃなくて…」

 しどろもどろに、オレは言葉を選ぼうとした。


 オレはチビ助のおじさんも親友も知ってる。

そして、今は高校へ行くために必死に勉強していることも。


 確かにチビ助は怜たちを知っているし、喫茶店のことだって。

だけどふと気づけば、オレは何一つ、自分のことを話してないと思った。




「3ヶ月、経つんだもんなぁ…」