あの日から、なんとなくろくに手すら繋げていない。

自転車の後ろに乗せているときに、腰に回されるチビ助の腕だけでオレは理性が崩壊しそうなんだ。


 …それに、オレにはチビ助にいわなくちゃならないこともある。



 こんな二人きりの空間も、正直しんどい。

やらなくちゃいけないことがあるのに、ヤマシイことが邪魔をして。

自分で自分がこんなにも疲れる人間だったなんて、今まで気づかなかった。


 たまらずため息をこぼしたときだ。


「太一さん、どうかしました?」

 ノートとにらめっこしていたはずのチビ助が、マグカップを差し出して覗き込んできた。


 いつものようにチビ助の家で勉強を見ていた。

珍しく考え込んでしまったオレを不思議に思ったのか、ホットミルクを片手に瞬きをしていた。


「え、あぁ…、ごめん」

 それだけ答えてカップを受け取る。

すぐチビ助は安心したようにふと顔を緩めて、また席に着く。


「もうすぐ2学期が終わっちゃいますね~」

 ほうっと温かい白い湯気を吹いて、期待と不安を混ぜたような笑顔をしていた。


 受験生のチビ助としては、かなり興奮しているようだった。

ちなみに、成績のほうは驚くほどあがっていった。


 確かに要領はよくないけれど、たった一押しすることによって問題は解けていく。

この頃は大分オレの手からも離れていたこともあって、安心する反面、どこか寂しいとさえも思っていた。



「そういえば…」