意地悪だけど、教え方は本当に上手だと思う。

学校の教科書一つで、こんなに勉強が身になるっていうのは初めてかも。


 無機質なあたしのノートに、やっぱり崩れた文字でポイントとか書いてくれる太一さん。


 杏ちゃんが使っているような、もっと可愛いものにしたかった。

けれど、あたしには必要ないんだ。


 だってかわいいノートは、花柄とかハートのマークとか邪魔なんだ。

太一さんの字が、あたしには何よりも大切。



 それに“太一先生”は、そんなこと気にするはずないから。



「また余所見か、チビ助っ」

 比較的薄い理科の教科書を丸めて、パコンと脳天を軽く叩かれる。


そんなこといっても、やっぱり細々とした文字はアリの行列に見えてしまうわけで。


頬杖をつきながら、何気なく外を見てた。


 少し暑くなり始め、大好きな桜も散ってしまった。

そんな木々は、暑さをしのぐように青い葉が木漏れ日を作り、まるであたしのやる気を削ぐよう。


 そんな木漏れ日の中、一人の女の子が通った。



 目がクリッとしてて、白い肌。
ちっちゃい顔にさらさらの髪をちょこんと一つに結っていて。

クセっ毛なあたしには到底出来ない。


 かわいいなぁ、と、ぽうっと見入ってしまっていた。


なによりも、その彼女はあたしが憧れる高校の制服だったから。