フォーチュンクッキー

「なんだそれは、うちの店にケンカ売ってんのか?」


 甘いチョコレートの香りがふわりと漂う。

かと思ったら、いつものように結ってる片方の髪がぐいっと後ろに引っ張られた。


思わずのけぞって顎が上を向いてしまい、その目先には太一さんの顔があった。


 喫茶店の太一さんでもない。

 先生の太一さんでもない。


 悔しいくらい、心臓がドキドキ響く。


「け、ケンカなんて…そんな、ことは…」

 目を合わせると、全部キモチが伝わってしまいそうで、視線をそらした。


 こんなに近いと、太一さんまで恥ずかしい思いをしちゃう!


あわてて離れようと試みるものの、いつの間にか背後からがっしりと肩を抑えられている。


「おーい、イチャつくなら他所でしてくんない?」

 可笑しそうな怜さんの言葉に、周りのお店の人たちはばっと顔をあわせてきた。


「れ、れれ、怜さんっ!?」

 体温が急上昇してばたばたもがいてみるものの、太一さんは離してくれなかった。

こそこそと周りのざわめきが、ところどころ聞こえてくる。


「あの子って平山くんの!?」

「え!?ちゅ、中学生っ!?」


 イイ話なんて、聞こえるわけなかった。

肩を落としていると、頭上からふう、とひとつため息がこぼれてくる。


「じゃあ、お言葉に甘えて」

 太一さんの手からトンと背中を押されるように開放される。

不思議に思って振り向くと、太一さんがエプロンを怜さんに向かって投げつけていた。