フォーチュンクッキー

「ほらよ…」

 ぶっきらぼうに太一さんが白い巾着をサトさんに渡す。

受け取ったサトさんは、ようやくあたしに気づいたみたいだった。


「あっ、確か……未来ちゃん、だったよね」


 第一印象はとってもかわいくて、憧れたりもした。

でも、少しニガテ意識がなくもなかった。


「こ、こんにちは…っ」

 慌ててぺこりと腰を折ると、くすくすと笑い声が聞こえてくる。

太一さんたちと同じエプロンをしてることすらも、なんだか切ない。


 どこに目を向けて良いかも分からなくて、ひたすら杏ちゃんと雛太の名前を心の中で叫んでいた。


「あ、あの、やっぱりあたし、大丈夫ですから…」

 怜さんとも目を合わせずにその場を立ち去ろうとした。

胸の奥がぎゅうぎゅうつぶされている感覚が、どんどん体中を支配していく。


 どうにも、あたし一人では耐えられそうにない。


「ま、また、あとで来ますから…」

 結局太一さんとは全然話せなくて、会いに来たはずなのに今では見てられない。

くるりと身を翻したときだった。


「未来がいたぁーっ!」


 人の合間を縫って、ぴょんと揺れた長い黒髪。

その見覚えのあるかすかな身体の一部に、思わず逃げ出すように走り始めていた。


「きょ、杏ちゃあんっ」

 飛び込むように抱きつくと、その隣にいた雛太が驚くように屈んで覗き込んでくる。


「未来、どうかしたか?」

 一瞬、ドキンと心臓が音を立てたけど、ごまかすように笑って見せた。