フォーチュンクッキー

 大好きな人の声って、不思議と脳まで響く感じがする。

それがあたしの名前でなくとも。


 横に立っていた怜さんの体がぐらりとねじられる。

思わずその通りに目を移すと、焦ったような太一さんの顔がすぐそこにあった。


「何やってんだよ…っ」


「え?ナニしてるようにみえたの?」

 怜さんの意地悪そうな笑顔に、太一さんは口を紡いでいた。

少し照れたようなその表情に、胸が苦しくなる。


「お前も、ひょいひょいついていくな」

 急に振られた話にあたしも「ごめんなさい」と呟いてしまった。


「…そうじゃなくてっ」

 なにか言いたげな太一さん。

意図を汲み取ろうと必死に見つめてみるものの、バツが悪そうにするだけだった。


「つまりだなぁ…」

 太一さんが言いかけたそのときだ。


「こらっ、客寄せ太一!早く集金袋よこしなさいよっ」


 そういって太一さんの背後から現れたのは、サトさん。

その声にがっくりうなだれる太一さんと、大笑いする怜さんが対照的だ。


「店に帰ってきたならすぐ渡す!」

 と、ぱしんと太一さんの頭を小突いていた。

それは長年培った関係なのかもしれないけれど、あたしには到底できそうもないこと。


 少しだけ、ジリリと苦い味が広がった気がした。