フォーチュンクッキー

 正門エントランスから細い路地を抜けると、中庭にたどり着く。

さきほどのところよりも人が賑わっていて、更に迷い込んでしまいそうだった。


 工事現場なんかでも見かける赤いポールの向こうに、肩身狭く怜さんに走るようについていく。

なるべく離れないように、怜さんの広い背中を追う。


 辺りは香ばしい香りや、甘い香りがひしめいている。

おかげで、朝ごはんは食べたはずなのに、今にもお腹の虫が悲鳴を上げて主張しそうだ。


 白い簡易テントの裏を抜けていくと、じろじろと嫌になるくらい視線が突き刺さる。

普通は関係者以外立ち入り禁止なんだろうから、当然といえばそうだった。


 肩をしぼませながら歩いていくあたしとは反対に、豪快に先を行く怜さんは、たくさんの人に声をかけられていた。


「あれ、怜ってば新しい彼女?」

「随分小さい子なんだ?」

 そういわれるたびに怜さんは楽しそうに笑っていた。


「違います!」

 っていえたらよかったんだけど、オトナな世界に足を踏み入れられなかった。

それに、怜さんや太一さんにとって、この人たちがどんな人なのかもわからないし。


何よりも、そんな勇気があたしにはなかった。


 あたしが何もいえないでいるのを怜さんが気づいたのか、「じゃあな」といって足早に抜け出してくれた。

それに習って、ペコリと会釈をして通り抜けるときだった。


「怜って意外と一途だもんね~」


 さっきの会話にも『新しい彼女』なんて言葉があった。

怜さんは付き合っていた人と別れたばかりなんだろうか?

なんてかんぐったのもつかの間。



「あんな小さい子と付き合ったら犯罪でしょ~?」