フォーチュンクッキー

 だめだめっ! 今日は気にしないってきめたんだ!

 頭をふって、数日前の光景を追い出す。


「じゃあ、三年生のページの…チョコバナナかぁ」

 杏ちゃんが紙をめくるパラパラという音が、やけに緊張させる。

雛太も隣で覗き込んでいたけど、あたしは手のひらが妙に汗ばんで、一緒になって見れなかった。


 周りはどんどん人が増える一方。

カラフルなTシャツやジャージを着た人たち、あたしたちと同じように制服姿の人たちと混み合ってる。


「あ、あった!未来…っ」

 杏ちゃんの声に、辺りを見回してたあたしは振り向いた。

けれど、その方向には真っ黒のトレーナー姿で遮られてしまう。


「こっちでお化け屋敷やってるんだ!きてよ!!」

 雛太と杏ちゃんは、背の高い男の人2人組にはさまれていた。

その背中には「恐怖のホラーハウスへようこそ」と描かれたダンボールが下がっており、血のような赤いペンキが垂れた跡を残していた。


 ちょうど間を阻まれてしまったあたしは、慌てて二人の元へ駆け寄る。

でも、人波が激しくてうまくたどり着けない。


「こういうときチビって役立たず~!」

 何とか人の切れ目を縫って近づいてみると、そこにはもう杏ちゃんたちの姿はなかった。


 ぽつんと、ただ一人。


「うそ……。はぐれ、ちゃった…」


 周りは知らない人だらけ。

切なくもあたしの上には秋空が広がっているだけだった。