……──悪いな、チビ助。


太一さんはそれだけ言って、あたしの家を去った。


突然やってきた女の人と一緒に…。



 まるで嵐だった。

キレイすぎて迫力があるって、こういうことを言うんだと思った。


 あの人…太一さんのお母さんは、太一さんがやってくると素直に従っていた。


 そういえば、太一さんの家族のことは聞いたことがなくて、いつもあたしばっかりだ。

自分のことでいっぱいになりすぎて、太一さんのこと全然わかってない。



 やっぱり、話したいときもあったのかな?


そんな不安を駆り立てるくらい、今日の秋空は肌寒かった。



「お待たせ、未来ちゃん」

 コトンとあたしの目の前に琥珀色のカフェオレが差し出された。


「ありがとうございます」

 お髭がよく似合うマスターを見上げた。


 なんとなく昨日のことが気になって、お父さんも術後で疲れていることだし、学校が終わってから喫茶店に来た。


 以前よりも確実に勉強をこなすスピードは上がったし、要領もわかってきたつもり。

まあ、こんなことを言ったら、“先生”に

「まだまだ甘い!」


なんてデコピンもらっちゃいそうだけど。


「あの、マスター……」

 コポコポと音が店中に鳴り響く。

そんな中、マスターは優しいまなざしで視線だけで応えてきた。


「太一さん、の昔って…」