ズボンをくしゃっと握って、目をつぶりたい衝動を抑える。



「…だから、お宅にお邪魔してよろしいですか?」

 目だけはそらせたくなかった。


 沈黙が続く中、オレの手はじっとりと汗ばんでいく。


「た、太一くん…そ、それは…」


 おじさんは明らかに動揺していた。

顔を真っ赤にしたチビ助は、隣で不安そうに見つめてきていた。



 大丈夫、なんとかするから。


こっそり手をつないでぎゅっと握ってやると、チビ助は唇を噛んで俯いてしまった。


「今、未来ちゃんとお付き合いさせてもらってます。
…でも、おじさんの心配がするようなことは何もありません」


 まだ、だけど。

それはおじさんはもちろん、チビ助にも秘密だ。



「彼女の受験を応援したいんです」


 それだけじゃないのは重々承知してる。

オレだって男だから、下心の一つや二つくらい隠れてる。


 でもいつも笑っていてほしいっていうのは、きっとチビ助だから思うんだ。



 パタパタと廊下で歩く音が響いて、窓からはありったけの日差しが差し込んでくる。

沈黙が続くこの病室の一角で、オレはひたすら答えを待った。