今よりも少し短いサラサラの髪は、相変わらずだった。

 あったかくて優しい笑顔は、唯一の安らぎ。



 いつから失くしてしまったんだろう。


「お母さん」


 そう呼べばいつだって振り返っては包んでくれたのに…。


「もう、『お母さん』が嫌…」


 母の涙をみたのは、それが初めてだった。

 大粒の雫がぽたりぽたりと頬を伝って、あたしの額に落ちた。


 お母さんと呼んだのは、その日が最後。

 あたしが生まれてきたから、泣いているんじゃないか。


 少し、そう思う。

だけど、そんな不安のときには…。


「未来がいてくれてよかったよ」

 お父さんが抱きしめてくれるんだ。


 今は、凛子さんが疲れちゃって、ちょっとだけ『お母さん』をお休みしてる。

もう一度、あたしのこと見てくれる日をひたすら待ってる。


 そのときは、今度はあたしがお母さんを守ってあげるよ。





「──未来、着いたよ!」


 体が揺すられて視界がぼんやりと開けてきた。

 覗き込んできたのは、杏ちゃんだった。