小さな商店街にあるから、この店は地元の人にしか知られていない。

かといって、何が自慢というわけでもないんだけど。



 なんとなくマグカップを拭きながら客を待つ。

外はぽかぽか陽気でオレは少し眠たくなっていた休日の午後。


 カラン、と扉が音を立てて開かれる。

それにあわせて振り返ると、クッキーをくれたおじさんがいた。


「こんにちは」

 ここの喫茶店は来客は少ないから、大体一度会えば顔は覚えてしまっていた。

口元を緩めて拭いていたカップをソーサーに置く。


「今日は何に……」

 しますか?って聞く予定だった。



 でもそのクッキーのおじさんの後ろから、あのチビ助がひょっこり顔を出した。


 開いた口がふさがらなかった。

そんなオレに気づいてか、おじさんは後ろの彼女をぐっと前に出した。


「ああ、お兄さん、この子は私の娘で……」

 優しそうなおじさんとそっくりな笑顔でチビ助は、照れたように笑ってた。

そうか、あの笑った雰囲気が似ていたのはコレだったのか……なんて、どこか冷静に考えてしまう自分もいた。


「こんにちは、タイチさんっ」

 元気な挨拶をする彼女は、耳の後ろ辺りで結ってる黒髪を揺らした。

相変わらず無垢なその瞳は健在だ。


「知っているのかい?」

 おじさんの問いにチビ助は嬉しそうに頷いていた。