小さな手を引いて、数回並んで歩いたこの帰り道。

 いつかは茜色に染められた空の中、おぶってやった。



 陽が伸びたこの季節。
ようやく空の向こうは青さが濃くなりかけている。


 遠くでコオロギだか鈴虫だか、夏の夜の音が響き始めていた。




「た、太一さん…」




 チビ助の声に返事もしないで、オレはひたすら歩いた。


その代わり、握っていた手を少しだけ力を込める。



 すると小さな手が微かに握り返してきた。




 高鳴る鼓動。

今は、それだけで一杯だった。



 こんな予定じゃなかった。




 後悔はないといったら嘘になる。

でも、心のどこかで安心もしていた。





 数時間前の出来事は、忘れたいような忘れたくないような―……