「き…、きちゃった…」

 こんな緊張感は、太一さんに会いに来た春以来。


 まともに会話もできなかった昨日。

今更ながら、どんな顔して会えばいいんだろう?


「ほら、いくぞ」


 コツンと後頭部を小突かれ、頭だけ前にのめりこんでしまった。


 ゆっくり振り向くと、私服じゃなくて学校の制服に身を包んだ太一さんがいた。


「こ、こんにちは…っ」


 ぴょこんと頭を下げると、すこし笑った声が聞こえて、それにどこかほっとしてしまう。



 昨日はどうかしてたんだよね。

モジモジしてるあたしに、いつもみたいに大きな手のひらで頭を撫でてくれた。


「毎日勉強だけじゃ身に悪いからな」

 そういって、太一さんは夏の日差しに溶けてしまいそうな笑顔を向けてくる。


 トクン、と心臓がなって、苦しくなった。

もうがんばりたくないのに、体がいうことを聞いてくれそうにない。


 半そでを翻した太一さんの背中に、一歩下がってついていった。