フォーチュンクッキー

 オレンジ色の残像で、今も鮮明に思い出せるほど。



 ただの“先生”だったらなんで?

バスケの試合の日だって、花火の時だって……。


 腕の強さも、ぬくもりも。

 優しさが…ずるいよ。










 柔らかい日差しであたしは目を覚ます。

遠くでやっと泣き始めたセミの声に、次の日の早朝だということが分かった。


 慌てて起き上がると、あたしの右手にはすこし汗ばんだ感触。

そこには、隣で眠ってたけど確かにお父さんはあたしの手を握っててくれていた。


 張り詰めてしまっていた緊張感が、少しだけ解けた気がした。


「…ありがとう」

 そっと呟くと、パシンと両頬を叩いて気合を入れる。


 太一さんに言われたとおり待ち合わせの喫茶店に向かうため。

そうと決まればてきぱきと体は動く。


 とりあえず、ムクんだ体を戻すために熱めのお風呂に入って、もうすぐ起きるお父さんのご飯も作った。



 あたしが家を出るときも、お父さんは何も言わず「いってらっしゃい」って笑ってくれた。


 どうしてか、それが無性に嬉しかった。


 小さく頷いて、こらから決闘に向かうかのような気持ちで出発した。