フォーチュンクッキー

 握ってしまっていた怜さんのTシャツの裾をゆっくり外す。

奥歯をギリっと噛んで、ぐっと涙を堪えた。





「うわっ」

 怜さんの叫び声とともに、喫茶店の扉が勢いよく開いて鈴の音がよく鳴り響く。


 気がつくとあたしは怜さんの背中を思い切り押していた。

その声と音で、店内にいた二人は入り口に視線を向けてきた。


 ぐいっと、申し訳ないけれど押しのけるように怜さんを通り越す。


「こ、こんにちは!…あつ、外暑いですよぉ」

 多分唇は震えていたけれど、誤魔化すことでいっぱいのあたしは精一杯口を動かした。


 店内は冷房が効いていて、さっきまでのじっとりした汗はすぐに引いてしまった。


「ち、チビ助…」

 太一さんの戸惑った声も気にしないように、あたしはいつもの席に座る。



 いつもどおりに、宿題を広げて。

 いつもどおりに、ペンケースを開けて。



「ひ…、雛太も勉強してく?」


 あたしはいつもどおりに笑いかけた。



 背伸びするってきめたんだから。