フォーチュンクッキー

 いつもの小さな紙袋にお皿に残ったクッキーを流し込むようにいれる。

杏ちゃんは隣で頬杖をついて、あたしの手元をじっとみながらぽつりと呟く。


「お菓子の一つくらい作れるようになろうかな?」

「急にどうしたの?」


 最後の一枚が袋に入ったのを見て、杏ちゃんは少しだけ目を伏せてそれ以上何も言わなくなってしまった。


 紙袋の口をたたんでテープでとめると、ちょこんと座る杏ちゃんに手渡す。


「…あたしだって、作れるのはお母さんに教わったこのクッキーだけだよ?」


 少し離れたお父さんのパソコンデスクに置かれたお母さんの写真が、かすかに笑った気がした。



「うっわ、もうこんな時間!」


 慌てた杏ちゃんは紙袋をバッグに詰め込んで、少し焦げた肩に引っ掛けて玄関を飛び出す。

またくるね、と付け加えてドアの向こうに消えた。



 パタンと閉じた扉は、夕方まで誰も連れてきてくれない。


 冷房を消してベランダにつづく窓を開けると、夏のさわやかな風が結ってる髪をすり抜けた。




 ……―こんなときは、思い出す。


 お料理もそんなに上手じゃなくって、洗濯も、掃除も。

不思議なくらいへたっぴなお母さん。



 そんなお母さんから教わったのはたった一つ、クッキーの作り方―…。