「で!?」

「…それで帰ってきた…」


 もう、思い出すだけで恥ずかしいのに。


「そうじゃなくてっ」

 目の前の親友は納得してくれない。


 言葉を探してると、ずいっと更に彼女の顔が近づいた。


「太一さん、他になんかいわれなかったの!?」

 少女漫画みたいに目に星を散らばしている杏ちゃんに、あたしは素直に答えた。


「他は…なんにも」

 口ごもってあたしは目の前のアイスティーに口をつけた。



 正直いうと、昨夜の花火を見終わってからあんまり記憶がない。



 太一さんが手を引っ張って、家まで送ってくれたのは覚えてるんだけど。


心臓が頭にあるみたいにバクバク鳴っていた。

すれ違った人の話し声も、セミや鈴虫の泣き声も、まったく耳に残っていなかった。



 なんだかいろんなことが起きすぎて、あたしの頭は追い付いていってない。


 でもこの杏ちゃんだけは全部知ってるかのようで、夏休みが始ったばかりだというのに朝っぱらから我が家にやってきたのだ。


もちろん、昨夜のことをきくために。


 お父さんは凛子さんに会いにいってるから、都合はよかった。



 ちゃんとクッキー渡してくれたかな?