「太一さん?」


 その黒い瞳は戸惑いに揺れていた。

ようやく戻りかけた肺の動きに一度だけ大きく息をはいた。


「ありがとな」


 クシャッと頭を撫でる。

チビ助は「あっ」と反応するようにまんまるの頬をピンクに染めて顔をほころばせる。



「無事でよかったですぅ」


 その笑顔で、入りすぎていた肩の力が抜けていくようだった。


 どちらからともなく歩き出す。

オレたちの時間が待つ、あの喫茶店へ。




「…まあ、オレの『妹』だったら、もうちょっと頭のデキがいいはずなんだけどなぁ」


 太陽が空をオレンジ色に染めようとしていた、この道。

オレが笑ったらチビ助は悔しそうにしていた。



「太一さんってば意地悪なんだからっ」


 ぷぅっと膨らませたチビ助をみて、嬉しくなってしまった。