特にこだわりもないこの店のできたカフェオレをコースターにのせ、彼女の目の前に差し出した。


「わあ……」

 彼女はすごく嬉しそうに笑うから、オレもついつい顔が緩んでしまった。

ストローをさしてやると、無邪気な笑顔を向けた。


「ありがとうっ」

 その顔はどこかで見たことがあった気がした。

けれど、すぐに思い出すことはできなかった。




「うわああぁぁあっ!!」



 突然、ずっと黙っていた競馬好きのおじさんが叫びだした。

その悲壮な叫びは店内のオレたちを驚かすのに十分だ。


 心臓が口から飛び出るかってくらい、驚きのあまりばくばくしている。


「ど…どうしたんですか……?」

 オレは勇気を振り絞ってカウンターに突っ伏したおじさんに声をかけた。


 返答がなく、おじさんをよく見たら耳にイヤホンがついていた。

小さな漏れる音から、どうやら小型ラジオで競馬の実況を聞いていたらしい。


 隣の彼女は、目を大きく開いたまま止まってしまっていた。

現状を把握できていないのだろう、まん丸の瞳が瞬きすら忘れている。



「……また、負けたぁ…」

 イヤホンを外しながら背中を丸めて落ち込むおじさんは、ようやく隣の小さな客に気づいた。




「んん?…太一くんの彼女?」