いっつもやられていたばかりのオレとしては、こんな怜は見たことがない。

「…ぶっ」

 おもわず噴出したらギロリとにらまれたから、とぼけるように肩をすくめてみせた。


 なんでオレだけなんだか。


「長谷川っ」

 タイミングよく、キャプテンである怜に顧問から声がかかると、ここぞとばかりに脱兎のごとく走っていってしまった。


もうすぐハーフタイムが終わるから、オレはちらちらと時計を気にしていた。



「先輩…、急にお願いしてすみませんでした」

 しおらしく頭を軽く下げて、オレの隣に座ってきた。


彼女はこの男子バスケ部唯一のマネージャー・松永さん。

学年は1つ下だけど、顔に似合わずしっかり者だから、他の部員からは『影の部長』なんていわれてるらしい。


 肩までの髪もそうだけど、雰囲気もそうだったから、オレはふわふわ娘って心の中で呼んでる。

そんな彼女が改まって言うもんだから、驚きを隠せなかった。



「実は私、昔やってたんです…バスケ」

 時間が迫っているのも忘れて、彼女の話に聞き入ってしまった。


「だけど、ひざをケガして出来なくなっちゃって…。日常生活には支障はないんですけどね」

 ぱたぱたと手を仰いで、気にしないでとでもいいたそうな笑顔だ。


床に引かれたラインをなぞるようにまた俯いていた。



「長谷川先輩って、実はああみえて昔から注目されていたし、ずっと憧れでした…。
だから、手伝いたくて平山先輩にお願いしちゃいました」


 にっこり笑ってふわふわの髪を揺らす彼女に、言葉が見つからなかった。


すこしだけ、気持ちが分かる気がしたから。