「おかえり、先生」

「うっせー」

 ベンチに座ってバッシュの紐を縛り直す。


 にやついて待ち構えていたのは怜。


 怜の口許からは、こんな汗臭い体育館に不似合いなほど、甘酸っぱい香りが漂ってた。


 なんとなく訪れた沈黙を破ったのは、怜。



「まさか…太一が引き受けるとは思わなかったよ」


 ちょうど靴紐を結び直して、折り曲げていた身体を起こしたときだった。



 からかうようなあの笑い。


なんていっていいかわかんなくて、天を仰いだ。



「未来ちゃんってすげぇなー」


 怜はちらりとオレの背後に視線をずらした。

なんとなく図星を指されたような気がして、隠すように首にかけたタオルで頭をぐしゃぐしゃ拭いた。



「……あの子は、関係ないだろ?」


 タオルの間から怜の様子をうかがったら、楽しそうに笑ってた。


 こういうときはいつも嫌な予感がするんだよな。


 蒸してきた体育館はさらに汗をかかせるのには十分だ。

晴れているはずなのに、じっとり感じるむき出しの肌を何度も拭う。



「最近、太一変わったよ」