「何スか、あれ…」

　オレの問いにマスターはさあ、と首を傾げるだけ。


　ちょっとニヤけているマスターは、なんだかキモチ悪い。

オジサンは相変わらず新聞とにらめっこで、オレたちの会話は耳に届いていないようだ。


　ため息を一つ零していると、ばっちり店内を覗き込む女の子と目が合った。

そのまま彼女も何かに気づいたように、慌てはじめている。


　なんだかおかしかったのでオレは手招きをしてみた。

彼女はキョロキョロと見渡し、ゆっくり人差し指を今にも鼻に当たりそうなところまで指先を持ってくる。


まるで動物園に来ているみたい。


　怖々とする女の子の表情に見兼ねて、オレは外に出た。


　カランッ、とベルを鳴らすようにすこし強めにドアを開ける。


「こら、チビ助」

　びくっと肩を揺らして、これから叱られるコドモのように視線を向けてきた。


オレの胸辺りまでしかない小さな女の子は、まるで小動物。


「何か用？」

「え…っ、いや、あの…っ」


　オレの質問に目が泳いでいる。

一つため息をついた。


「用がないなら…」

　言いかけたときに、ぱっと肩を掴まれた。

いつの間にか、店から出てきたマスターだった。



「…お譲ちゃん、寄ってくかい？」