「サト…」

 オレが小さくつぶやくと、怜は口はしを吊り上げた。


「ちょうどいいや」

 含みを持たせるその笑いに、どこか不安を煽られる。


「怜……っ!」

 走ってここまできたのか、肩で息をするサトの泣き叫ぶような声。

サトから溢れてるのは涙なのか、響くほどの想いなのか。


 ゆっくりオレの耳元へと怜の顔が迫ってきた。


 近づこうと足を大きく踏み出したサトが、何度も怜の名前を呼ぶ。


でもそれは愛しさなんかこれっぽちも感じさせない。



 たった一瞬を、この時だけは止まったんじゃないかって思う。


 ふっと緩んだ首元。

耳から駆け抜けた怜の押し殺したような切ない声。



「サトはな……」


 オレはなにも知らなかった。

いや、怜の言うとおり、知ろうとしてなかったんだ。






「ずっと、お前が好きだったんだよ」





 怜はどんな気持ちでオレと接していたんだろう。


 なぁ、なんで笑っていられたんだ…?