持っていたペンも、思わずぽたりとノートの上に落としてしまった。


「未来…」

 思考回路がとまったあたしに、うかがうような杏ちゃんの声ではっと我に返る。

ごめん、と小さく謝って、再びペンを持ち直した。


 そんなあたしにニヤリとする杏ちゃん。


「太一さんに恋してんだ?」


 杏ちゃんはすでにお弁当も食べ終わっているようで、あたしのもってきた冷たいお茶をおかわりしていた。

 冷やかすのではなくて、さも当然とばかりにいうので驚きを隠せなかった。


 ……コイ?


 鯉?

 濃い?



 浮かぶだけのコイが頭をよぎる。


 そんなあたしの考えを見抜いているかのように、杏ちゃんは諭すように笑った。



「恋に理由なんていらないんだってば」


 恋……。

そっか、あたし、太一さんに恋してたんだ。



 胸の奥の奥でずっと絡まっていたものが、すこしずつ解けていく。