はあ、と吐くたびに染める白い息が、どんよりと灰色の雲を覆った冷たい空に溶ける。


 その日は今にも雪が降りそうで、あたしは目の前を歩くお父さんに寒さを耐えながらついていった。


「…お母さん、元気かな?」


 あたしの言葉にお父さんは振り返って、口端を緩めた。


「未来の顔見たら喜ぶよ」


「……うん…」


 そんな言葉が嬉しくて、小さく頷き口をきゅっとしめた。



 家から目的地の病院までのちょうど中間地点あたりに差し掛かった。


 ずっと下を向いていたあたしの鼻腔を、微かにくすぐる。

どこからか温かくて、少し苦みを帯びた香りが流れ込んでいたのに気づいた。


 普段は飲まないコーヒーの香り。

少し緊張気味のあたしには、どこか安心させるようだった。



 それの元となっていたのは、小さな喫茶店。

なんとなく曇った窓ガラスを覗いてみる。



 ─────今でもその光景が焼きついている。


その向こうに温かい光に照らされた、柔らかい笑顔。



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