「らっしゃーい!」

「お嬢ちゃん!たこ焼き美味しいよーっ」

「毎度ありー!」


笛や太鼓の軽快な祭りばやしをバックに飛び交う威勢のいい声。


焼きとうもろこしの香ばしい焦がし醤油のにおいに、たこ焼きや焼きそばのソースのにおい。そこらじゅう美味しそうなにおいで溢れている。


浴衣の男女や家族連れが行き交い、辺りは賑やかで楽しい雰囲気に包まれていた。


「ゆかり、本当に行かなくていいの?」


カランコロンと下駄を鳴らしながら隣で心配げに私の顔を見ているのは、親友の亜美(あみ)。

くりっと大きな目の童顔で淡いピンクの浴衣にふんわり編み込みおさげがよく似合っている。


「うん。いいの」


私、横澤 由香里(よこざわ ゆかり)は明るく返事を返した。


亜美が行かなくていいのかと言っているのは、このずらりと両サイドに並ぶ屋台の一番奥にある"わたあめ"の屋台。


今日はそこにたどり着く前に引き返すつもりでいる。


「せっかく浴衣着て可愛いのに〜もったいないっ。更に大人っぽく綺麗になったゆかりを見せつけてあげたらいいのに」


そう言って少し口を尖らせた亜美。


「そんなに変わってないって」


去年の夏と同じ紺地に白い向日葵が咲く浴衣。確かに髪型は変えて緩いシニヨンにしてメイクだって少し大人っぽくしてみたけど、大して変わってないと思う。