私 ホームヘルパーです。

 焼き魚の後にはジャガイモの煮転がしが出てきました。 うーーん、出汁が利いてるーーーーー。
「お酒はどうされますか?」 「そうだなあ、武井さんは飲む?」
「ああ、それじゃあビールを、、、。」 「竜岡さんは?」
「車運転してるからノンアルで。」 「畏まりました。」
 静かな静かな居酒屋です。 食べ放題とは全然違うなあ。
煮転がしを食べ終わった頃、野菜サラダが出てきました。 「この野菜さあ、裏庭で育てたんだってよ。」
「へえ、すごいなあ。」 「なあに、種を蒔いて水をやってりゃ育つよ。」
「私には無理かもねえ。 気になっちゃって、、、。」 「育てようって思うから気になるんだよ。 水さえやってれば勝手に育つ。」
「それはそうでしょうけど、、、。」 「毎日、日記なんか付けようと思ってるでしょう?」
「それは無いんだけどさあ、、、。」 話は盛り上がってきました。
 竜岡さんはノンアルのドリンクを飲みながらボソッと言いました。 「次はタクシーで来よう。」
「うどんとソバ、どっちがいい?」 「私はうどんがいいなあ。」
「じゃあ俺もうどんで。」 「竜岡君、彼女に合わせたな?」
「そんなんじゃないよ。 食べたかっただけ。」 「へえ、その勢いで今夜は彼女もパクリ?だな?」
「何だよ。 俺はそんな軽い男じゃねえよ。」 「まあまあ怒るなって。 ほら煮込みうどんだ。」
 小さな鍋に盛られたうどんを川本さんが運んできた。 「こいつ、超熱いからね。 気を付けてね。 奥さん。」
「だからそれは余計なんだって。」 「早く捕まえろよ。 逃げちまうぞ。」
 小鍋から湯気がすごいなあ。 思い切り暑そう。
木の杓子でおつゆを飲んでみる。 「おいしーーーーーい。」
 思わず頓狂な声を出したもんだから奥さんまで振り向いた。 「素直な人だねえ。 竜岡君。」
「おめでとうございます。」 「ままま、待ってよ。 まだだって。」
 でもどう見たって竜岡さんは私を凝視しているのです。 ここで食べられるのかと思ったくらいに。
「ご馳走様でした。」 「またいらしてくださいね。 今度はぜひご夫婦で。」 「分かりました。」
「ちょちょちょ、武井さん。」 「竜岡さんも本当は思ってるでしょう? 捕まえたいって。」
「そりゃまあ、、、。」 「決まりね。 よろしくお願いします。」
「は、はあ。」 店を出て竜岡さんの車に乗ってから私は切り出した。
「百合子も喜んでくれてるんです。 前の父親とは違うねって。」 「そうなのか。 いや、まあそれなら良かった。」
 居酒屋の帰りにブックオフに寄りまして欲しがっていた本と売れ残っていたアクセサリーを買ってきました。 本は信二に、アクセサリーは百合子にね。
家の前で車を降りた時、何とも言えない寂しさが込み上げてきまして、、、。 「どうしたの?」
「いえ、何か寂しくて、、、。」 車から降りてきた竜岡さんは私の肩を抱いてくれました。
そして「結婚しようね。」って言ってキスをしてくれたんです。 今、ここで殺されてもいいわ。
 家に入ると居ないはずの信二が居ましたわ。 「お帰り。 決めたんでしょう?」
「え? 何を?」 「さっき、おじさんとくっ付いてたよね?」 (ギク、、、。)
「結婚するんでしょう? おめでとうじゃない。」 百合子まで部屋から出てきた。
 「あの、あの、あの、、、。」 「いいよ。 俺たち応援してるから。」
「そうなの?」 「そうだよ。 お兄ちゃんねえ、すんごい妬いてたのよ。」
「こらこら、それは余計だよ。」 「いいじゃない。 ほんとのことなんだから。」
「だから言うなっての。」 「二人にもお土産買ってきたわよ。」
「何を?」 「これこれ。 欲しがってたでしょう?」
「ワーーオ。 幸せのお裾分けってやつね?」 「馬鹿。 それは結婚式の時の、、、。」
「いいじゃんいいじゃん。 お母さんがこれでやっと幸せになるのよ。 これから一か月はお祝いムードで楽しくやりましょうねえ。」
 百合子はニコニコしながら部屋に戻っていった。 私はというとお風呂に入っても布団に入っても寂しくてしょうがないの。
翌日は日曜日。 何処かに出掛ける予定も無いし凛子さんたちと会う予定も無い。 久しぶりに家に籠りっぱなしの日曜日。
ああ、、どうしましょう? ねえ竜岡さん?