3月初旬のよく晴れた日。
大きなキャリーバッグ片手に、晃洋さんと空港に来ている。

この日のために随分前から仕事も保育園も休みを取って、アメリカへ旅立つ晃洋さんを2人でお見送りするのだ。
フライトまで、あと20分……。

今日までに、これでもかと言うくらいに3人での時間を過ごしてきたはずなのに。必ずここへ帰って来ることが約束されているのに。
やっぱり、離れるのは寂しい。


「2人とも、体調には気を付けてな」

「晃洋さんこそ、環境が変わるから体調崩さないようにしてくださいね」

「太らないように気を付けるよ。帰って来て、妃織に嫌われたら困るからな」


しんみりとしてしまわないように、冗談を言いながら妃織を抱っこしてくれる晃洋さん。

妃織も嬉しそうに晃洋さんに抱っこされながら「パパ、おしごとがんばってね」と、可愛らしい応援の言葉を掛けている。


「じゃあ、そろそろ行く」

「はい。お気を付けて」

「アメリカに着いたら、すぐ連絡するから」


そう言いながら私のことをぎゅっと抱きしめて、晃洋さんはおでこに優しいキスを落とす。

泣かない、泣かない、泣かない……。
今日は絶対、笑顔でお見送りするって決めたんだから。

そう思えば思う程晃洋さんのぬくもりを手放したくなくて、鼻の奥がツンと痛くなってくる。