23歳になっても結婚する気配が全くなく、司書として働く自分が『行き遅れ』と影で噂になっているのは知っている。
私ははあっとため息をつき、聞こえないふりをした。

 ◇ ◇ ◇

「あー、今日も疲れた」

仕事を終えて自宅に戻ると、私は質素なベッドに倒れ込む。
視界に映る天井には、ボロボロの職員用宿舎の小さな個室を照らすランタンがひとつ、ぶらさがっている。

「英雄竜騎士様、か……」

私、エレオノーラ=レガーノは、レガーノ子爵家という裕福な子爵家の長女として生まれた。
レガーノ子爵家は3代前に魔法石鉱山を発見して大富豪になり叙爵された新興貴族で、当時、私は何不自由ない生活を送っていた。

レオ、彼女達が噂していた英雄竜騎士ことヴァレリオ=ボローニとの出会いは、私が10歳、彼が9歳のときのことだ。

『今日はお父さんの取引先の方がご子息を連れてくるから、エレンがおもてなししてくれるかい?』