しばらくすると。
 父がノックスヒルの真の主と呼ぶ、家令のクリフォードが電話口に出た。


「おはようございます、ジェラルディンお嬢様」

 いつも通りの落ち着いたクリフォードの声だ。
 彼は父が幼い頃からクレイトン伯爵家に仕えてくれている。
 この忠実なクリフォードを忙しい目に合わせるのは忍びないが、今日の1日を乗り越えられるかは、彼の双肩にかかっている。


「おはようクリフォード、お父様とお母様はいらっしゃる?」

 私は挨拶もそこそこに早口で切り出した。


「旦那様は夜明けから鴨撃ちへ。
 奥様は教会のバザーへ」

 私の逸る気持ちが受話器からも伝わったのか、返すクリフォードの返事も短い。
 父が朝一番で猟に出ているであろうとは思っていた。
 鴨はモニカの大好物だからだ。

 11月第2週に猟が解禁されると、10日に1度は父はモニカが喜ぶから、と鴨を撃ちに行っていた。


 これから。
 私は姪の帰郷を心待ちにしているそんな父も含めて。

 ノックスヒルの皆が信じたくもない、心を削るであろう話を、聞かせなくてはいけないのだ。